スイスで鉛から金を作ることに成功!金の価値は下がるのか?

2025年5月、スイスにある世界最大の素粒子物理研究施設「CERN(欧州原子核研究機構)」で、驚くべき実験成果が報告されました。なんと、鉛から金を生成することに成功したのです。
これは、古代から語られてきた「錬金術」が、現代科学の力で現実となった瞬間でもあります。
この実験は、CERNの大型ハドロン衝突型加速器(LHC)を使った「ALICE実験」というによって行われました。では、実際にどのように金を作ったのでしょうか? そして、今後金の価値が下がる可能性はあるのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
目次
ALICE実験とは?鉛が金へ変身する仕組み
ALICE実験は、LHCという特殊な装置を使って鉛のイオン(電気を帯びた粒)を光速のほぼ100%で加速し、「超周辺衝突」と呼ばれる現象を発生させます。
この衝突では、鉛の原子核同士が直接ぶつかるわけではなく、すれ違うように近接することで、非常に強い電磁場が生まれます。この電磁場が、まるでガンマ線(高エネルギーの光子)を照射したような効果をもたらします。
このガンマ線のような高エネルギーの光子が鉛の原子核に当たると、原子核の中から陽子や中性子が飛び出すことがあり、これによって元素そのものが変わることになるのです。
この性質を利用して、鉛を金に変えることに成功したわけですが、これを説明するには、中学生や高校生で学んだ「原子(げんし)」や「陽子(ようし)」「イオン」というものを復習する必要があります。
原子と陽子、イオンについて復習しよう
まず、すべての物質(人・水・空気・机・金属など)は、原子(げんし)というとても小さな粒でできています。
原子は目に見えませんが、すごくたくさん集まって、身のまわりのものを作っています。
そんな小さな小さな原子ですが、その原子の中身はさらに3つの小さな粒でできています。
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陽子(ようし):プラスの電気をもつ
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中性子(ちゅうせいし):電気をもたない(中性)
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電子(でんし):マイナスの電気をもつ
ちなみに、陽子と中性子は、原子の中心(原子核:げんしかく)にくっついています。
電子は、そのまわりをグルグル回っています。
たとえば鉛(Pb)の原子は、原子核の中に陽子82個と中性子126個前後があり、そのまわりを電子82個が回っています。
全体としては、プラスの電気とマイナスの電気が釣り合ったバランスのとれた状態が通常となります。
では、続いて「イオン」についてです。
イオンというのは、「電子が出入りして電気的にバランスが崩れた原子や分子」のことです。
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電子を失う → プラスの電荷をもつ陽イオンになる
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電子を受け取る → マイナスの電荷をもつ陰イオンになる
つまり、電子の数の変化にイオンになるということですね。
この後詳しく説明しますが、陽子の数が変わると原子の種類そのものが変わることになります。
陽子の数=原子番号=元素の種類
「陽子」の数が、その原子の「原子番号」となります。
例えば、陽子が1個なら水素(原子番号1)、2個ならヘリウム(原子番号2)、6個なら炭素(原子番号6)となります。
陽子の数が異なると、まったく別の元素になります。たとえば、水素(陽子1個)とヘリウム(陽子2個)は、陽子の数が1つ違うだけで、性質や名前が全く異なるのです。
陽子の数 | 元素名 |
---|---|
1個 | 水素 |
2個 | ヘリウム |
6個 | 炭素 |
8個 | 酸素 |
79個 | 金 |
82個 | 鉛(なまり) |
上記の表のとおり、たとえば、陽子が79個なら金、82個なら鉛というふうに、陽子の数がそのまま「元素の名前」になります。これを「原子番号」とも言いますね。
鉛を金に変えるには、陽子を3つ減らせばいい!
原子の種類は、「陽子の数」で決まります。
たとえば、「金」は陽子を79個持つ原子、「鉛」は82個の陽子を持つ原子です。
つまり、鉛から陽子を3つ取り除けば、金と同じ「陽子79個の原子」になる=鉛が金になるというわけです。
核変換で、陽子を数を調整する
陽子や中性子の数を変えて、ある元素を別の元素に変える技術を「核変換(かくへんかん)」といいます。
核変換には、LHCという特別な加速器が使われます。
この装置で、鉛のイオン(電子を失った鉛の原子)をほぼ光の速さまで加速し、すれ違うように近づけて「超周辺衝突」という現象を起こします。
このとき、鉛の原子核どうしが直接ぶつかるわけではありませんが、接近するだけで非常に強い電磁場が発生します。
この電磁場が、まるで「ガンマ線(高エネルギーの光)」を照射するような効果を持ち、鉛の原子核に強い影響を与えます。
その結果、陽子や中性子が原子核から飛び出すことがあり、こうして、鉛が金へと変化することになるのです。
鉛から金はどれくらいできたのか
2015年から2018年にかけて、スイスのLHCというすごく大きな実験装置で、鉛(なまり)を使った実験が行われました。ALICE(アリス)という名前の実験チームをふくむ4つのグループで、全部で約860億個の金のもとになる小さな原子のかけら(=金原子核)が作られたと報告されています。
でも、これを重さでいうとたったの29ピコグラム。これは「1兆分の29グラム」というものすごく小さな量です。わかりやすく言うと、人の髪の毛1本(約0.1ミリグラム)の約300万分の1しかないくらいの、ほんのわずかな金しかできていません。
どうやって金ができたってわかるの?
ALICEでは、「ゼロ度カロリメーター(ZDC)」という特別な装置を使っています。
実験で鉛のイオンが衝突したあと、外に飛び出した陽子(プラスの電気をもつ粒)や中性子(電気をもたない粒)を数えて調べます。その数から「何個の陽子がなくなったか」を計算し、そこから金や水銀、タリウムなど新しく生まれた原子核の種類を特定します。
できた金はすぐ消える?
ごくごくわずかな量の金しか生成できていないということをお伝えしました。
しかも、この金はとても不安定で長くは存在できません。
たいていは、マイクロ秒(100万分の1秒)しか生きていないんです。すぐにバラバラになったり、周りにぶつかって消えてしまいます。なので、アクセサリーや工業用途には一切使えません。
1グラムの金を作るのに必要な費用はどれくらいか?
今回の実験で、1グラムの金を作るには、およそ1,000億年かかり、総エネルギーとして 1.3 × 10¹⁵ジュール × 10¹¹年 = 1.3 × 10²⁶ジュールが必要となります。
これは、地球上のすべての海の水を沸騰させるのに必要なエネルギーの約1.53%に相当します。
日本の平均的な電気料金(家庭向け)を、約30円/kWhとしたら、 1京8000兆円もの費用がかかるという計算となります。
日本の国家予算(約100兆円)の100兆倍以上にもなり、現実的には全く支払えないレベルのコストです。
💰 人工的な金の誕生で、金の価値は下がるのか?
今回の、鉛から生成された金の実験結果では、金の市場価値が下がる可能性は極めて低いでしょう。
実験で生成された金の量は、29ピコグラムと極めて微量であり、商業的に意味を持つ量ではないという点と、
LHCの運用には莫大なコストがかかり、金の生成には非常に高いエネルギーが必要です。この方法で金を大量生産することは、現実的ではありません。
また、そもそも今回の実験の目的は、金の商業的利用を目的としたものではなく、核変換の物理的メカニズムの理解や、加速器運転時のビーム損失の理解、将来の粒子加速器設計にとって重要な知見を得ることなんだそうです。
ただ、こうした技術革新は急速に進化していくもの、数年後、数十年先には実用化されている可能性ももちろんあるでしょう。
金相場が過去最高を更新している最近なので、このタイミングでぜひ金製品(金貨、貴金属)のご売却をご検討くださいませ。